ガミースマイルについて
一般的にスマイルの良し悪しを決定する要素には歯ぐきの見える量が大きく関わります。下図はスマイル時のさまざまな歯ぐきのみえる量の違いを示しています。一般的に審美的に問題となるのはHigh(ハイリップライン)といわれるタイプで、この時のスマイルはガミースマイルと言われます。
ガミースマイルは芸能人にも多く、個性あるチャームポイントとして前面に打ち出す方々もいますが、一般的に多すぎる歯ぐきの露出は審美という観点からは少し外れていると言われます。 ガミースマイルの原因としては、上顎(アゴ)の骨の形状や顔面筋肉の動き方などが挙げられます。ガミースマイルの治療には対症療法と根本治療法があり、根本治療として外科手術(粘膜・筋肉・骨の調整)や歯列矯正が挙げられます。
最近、お手軽な対症療法として、美容外科でのボトックス注入法などが流行っています。ボトックスにはもともと眼瞼痙攣(がんけんけいれん)の薬で、過剰な筋肉活動を抑える働きがあり、笑って口を大きく開いた時に歯ぐきが見えすぎてしまう筋肉の動きを抑制します。しかし、半年程度しか持続せず、定期的に注入する必要があります。
根本治療法として、唇を引き上げる軟組織の動きが大きすぎる場合には、外科手術で粘膜を除去したり筋肉を切断したりすることで、軟組織の動きを抑えます(粘膜切除法及び筋肉切除法) 。
また歯列や上顎(アゴ)の骨の形の不正がある場合は、上顎(アゴ)の骨切り手術や歯列矯正などが、根本治療となります。
また、歯冠の長さが短い場合には、歯の周囲の骨を削ることにより、歯冠の長さを確保し、相対的に歯ぐきの露出量を減らす方法もあります。従って根本治療では、どうしても外科手術もしくは歯列矯正治療などが必要になります。
以下に当院でのガミースマイルの改善症例を示します。参考になれば幸いです。
症例1 インプラントアンカー使用により外科矯正を回避したケース
32歳 女性
笑った時に歯ぐきが見えるのが気になる。矯正治療希望。
矯正相談に数件の歯科医院へ行った。ある歯科医院では上顎(アゴ)の手術を含む外科矯正をすすめられ、ある歯科医院では対応不可能だと言われた。相談で来院。
【症例解説】患者様の希望としてはボトックス注入法のような一時的な効果の治療はいやということでした。大学病院歯科での上顎(アゴ)骨切り手術まではしたくないとのことで、インプラントアンカーを固定源としたインプラント矯正で対応することとなりました。
*近年の矯正治療において、インプラントアンカー(固定源)を使用することにより、骨切り手術などの外科矯正を回避できる範囲が拡大しています。
術前
治療の流れ
ガミースマイルの方では歯も出ている場合が多く、この患者様も前歯を引っ込める必要性があったため、小臼歯の便宜抜歯を行いました。
そしてスクリュータイプの矯正用インプラントを固定源として利用し、歯を垂直方向に移動させながら前歯を引っ込めました。黄色の矢印部分がインプラントを示します。
スマイル時の歯肉の見える量が減少しています。上顎(アゴ)の左右の傾きもできる限り修正します。
症例2 歯冠の長さを確保し、オールセラミッククラウンで左右のバランスを整え、相対的に歯ぐきの露出量を減らしたケース
44歳 女性
笑った時に歯ぐきが目立ちすぎて、左右の歯がバランス悪く見えるのを治して欲しい。歯の色も自然な感じにして欲しい。全体のかみ合わせも気になる。時々、顎が痛くなる。きっちり治したい。
【症例解説】すでにたくさんの治療歴があり、特に上顎前歯に関しては冠をやり変える必要性がありました。現状ではリップラインが高く、前歯の露出が多い方でしたので、審美性の高いオールセラミッククラウンで対応しました。最終的な左右の歯のバランスを整えるために、外科手術により前歯の周囲骨の削合を行い、左右の歯茎ラインをそろえました。顎がときどき痛くなるといったように、左下顎骨に大きなのう胞が存在したために、その摘出手術を行いました。全体的な咬み合わせも不安定で、抜歯後の欠損部(歯がなくなった所)にインプラント治療を計画し、咬み合わせの安定化をはかりました。歯並びの問題が残る下顎前歯部においては部分矯正後、保定をかねてオールセラミックによる治療を行いました。
従って、歯列矯正治療のみならず歯周外科・インプラント・審美歯科治療などの総合力が要求される包括的矯正治療となりました。
術前
治療の流れ
before & after
症例3 唇裏側の手術により、スマイル時の唇の過度な動きを抑制し、歯ぐきの露出量を減らしたケース
54歳 女性
主訴 笑った時に、歯ぐきが見えすぎるのが気になる。家族にも指摘された。数件の歯科医院を回った。ある歯科医院では、抜歯矯正をすすめられた。ただ、年齢的な問題もあるので、いまさら矯正治療はしたくない。矯正治療なしで、うまく治れば、娘にすすめたい。
【症例解説】患者様の希望としては、矯正治療はいやということでした。よって、歯や顎骨の位置異常をそのまま放置し、リップ(唇)の裏側から外科手術で細工を加えることにより、スマイル時の歯の露出量をコントロールするリップリポジショニング サージェリーを行いました。
*よって、上の前歯の隙間は、患者様の希望に合わせて、そのままとしました。
術前
上の前歯の隙間は、患者様が矯正治療を希望されなかったため、その希望に合わせて、そのままとしました。
診断
側方から見ても、フルスマイル時の歯ぐきの露出量は大きく、上顎骨の位置がよくないことも推測されましたが、外科矯正を回避して、リップリポジショニング サージェリー単独で対応するような治療計画を立案しました。
極度に活動的な上唇
Hyperactive upper lip
治療方針:リップリポジショニング
Lip Repositioning Tecknique
Rubinstein,1973
治療の流れ
10~12mm Rosenblatt, 2006
意図する口唇移動量の2倍 Simon, 2007
*効果に個人差がある。若干の後戻りもある。
後戻り防止のため筋切除 Miskinyar, 1983
表から見えない位置でどうしても瘢痕が残ります。しかし、時間と共に軽減化される傾向にあります。